みつばち社会〜働き蜂⑨扇風と温度調節〜

働き蜂のお仕事のことも、今回で9回目。
今回は、働き蜂たちと巣の中の温度調節について。

巣箱の中の温度調節

巣の中にいる働き蜂たちは、巣内の温度をほぼ一定の温度(巣の中心温度は約32~35度)に保ち続けるため、暑い夏や寒い冬、巣の中などで様々な取り組みをしています。

巣内の温度を一定に保つ一番の理由は、幼虫を正常に発育させるためであり、育児圏の温度を一定に保つことが何よりも大切なことなのです。子どもたちのために快適な空間を作っているのですね。そのため、ミツバチは、巣温の変化を敏感に感知する温度感覚を持っています。

夏の暑いときは

気温が高いと、幼虫を育てるための適温を超えてしまうため、巣内を冷やす工夫が行われます。

蜂密度を下げる

まず、中央に重なるように巣板上にいた働き蜂の間に隙間ができ、中央の巣板に集中していたものが外側の巣板に分散することで、蜂密度を下げて、温度を下げます。

ニホンミツバチの巣の中では、みんなそれぞれ仕事をしています。

また、それでも暑いときは、熱を持っている自分たち(働き蜂)が巣の中から外に出ていくことで、巣の中で蜂が減って、蜂密度を下げることで、巣の中の温度を下げようとします。たくさん働き蜂が、巣箱の外に出て、巣箱の外側にびっしりとつくことがあります。

みつばちが外に

巣の中の温度を下げるために外に出てきたみつばちたち

さらに暑いとき、風を送る

さらに暑いときは、働き蜂たちが翅を羽ばたかせて、巣の中に風を送って、暖かい空気を外に外に出し、空気を入れ替えます。ちなみに、参考文献によると、この扇風の羽ばたき回数は、1秒間に150~200回程度であり、飛んでいるときは、1秒間に250回であるので、少しゆっくりと羽ばたいているそうな。

この扇風方法はニホンミツバチとセイヨウミツバチでは違っています。

セイヨウミツバチの場合

巣門に頭を向けて羽ばたくことで、巣門から巣内の暖かい空気を “排気(外に抜き出す)”します。

セイヨウミツバチ

セイヨウミツバチの扇風写真を持っていないので、代わりに暑くて外に出てきているときの様子

ニホンミツバチの場合

その向きは逆で、巣門にお尻を向けて羽ばたくことで、外の涼しい空気を巣内に送り込む“送風”の役割をします。そのため、巣箱の蓋や巣箱上部には水滴がつき、湿った状態になるのもニホンミツバチの特徴です。

ニホンミツバチの扇風行動

巣門にお尻を向けて羽ばたきます。

ニホンミツバチの場合は、直接巣内の匂いを巣の周辺に排出することは、天敵であるスズメバチなどの危険性が高くなることや、襲ってきた害敵への攻撃態勢が素早くとれるように頭部を前方に向けているのだろうと言われています。

今回はここまで

暑いとき対策にはまだ続きがあるので次回はその続きを。そして、寒いときはどうするのかなっていうことも書いていきます。

扇風機のように羽ばたいて風を送ることで巣の中を快適にする。働き蜂にしかできない、大切なお仕事の一つです。

 

参考文献

フォーガス・チャドウィック、2017、『ミツバチの教科書』、株式会社エクスナレッジ
吉田忠晴、2005、『ニホンミツバチの社会をさぐる』、玉川大学出版部

みつばち社会〜働き蜂⑧職人の技が光る!みつばちの部屋作りの巻・後編

さて、みつばちの部屋作り後編です。(前編はこちら

みつばちの巣房は6角形のハニカム構造。
そのことを知っている人は多いと思いますが、
どのようにできているかはなかなか知らないのでは?
と言っても、実際に作っているところを観察するのは難しいので
(だってみんなモリモリに重なり合って代わる代わる巣を作っていくものだから現場は常に人だかりというか蜂だかり覆われているのですよ)、
研究者たちの報告などから、その部屋作りの様子を想像してみましょう。
今回は坂上(1983)の紹介する、マーティンとリンダウアーの報告を見ていきます。

マーティンとリンダウアーの報告

①規則性を作る首の毛
巣室は重力刺激を手掛かりに作られていくのではないか、と仮定して
500から1,000匹の働き蜂の頭と胸、胸と腹を接着剤で固定したり、
頭と胸と腹の接続部分の感覚毛を塗りつぶして固定した。
そして、どのように巣を作るかを観察した。
その結果、頸部の感覚毛が重要であることがわかった。
頸部の感覚毛が固定されている時、巣室のかたちは不規則な形をとる。
しかし、接着剤がはがれて感覚毛が機能を取り戻していくと、規則的な巣室が作られるようになることが観察された。

②滑らかな巣の壁
マーティンとリンダウアーは、
触覚が使えなくなったらどうなるのかという疑問から、
ミツバチの左右の触覚先端を除去した。(かわいそうだけど、研究者っぽいな)
すると何が起こったか。
正常な巣壁は滑らかでシワもなく、厚さも0.07~0.09mmと安定しているが、
触覚が除去されると、そうした精巧さは見られなくなった。
つまり、触覚先端は、巣壁の仕上げに欠かせない道具だということがわかった。

③壁の厚みはどう測る?
さて、そしてマーティンとリンダウアーの新たな疑問が生まれてきます。
精巧な巣壁を作る働き蜂、
だけど壁の一方側で働いているというのに
壁の厚みを均一にできるというのは何故なのだろうか。

二人は、触覚と大あごの形態学、そして巣壁に刺激を与えた際のたわみ方の研究から、
次のような仮説を立てます。
加工のために蜂が大顎で壁面に窪みをつけると、
窪みは、材料の持つ可塑性(この場合は、蜂が巣壁を齧り取って、巣壁は蜜蝋でできているので、齧られたことによる凹凸が緩やかに滑らかになっていくこと)によって、元の位置に戻る運動を起こす。
そして、巣の温度が均一な時(35度)、均一な材質で生じる、こうした復元運動は、
復元されるまでの時間経過が一定だとすると、窪みの位置や深さ、壁の厚みで復元具合が決まるという。
その際、働き蜂の触覚先端は、巣壁の加工部位を常に探っており、窪み、位置、深さ、復元具合などの諸所のパロメーターを記録している。そこから、壁の厚みを算出しており、以後の加工方針の決定に必要な情報を提供している。

ふむふむ。そして、ここから先のところがわからない・・・

「この仮説で注目すべき点は、すでに出来上がった六角中の枠組み内で仕事が行われるときにのみ、精密計算での正確な答えが得られることだ。巣室にわずかなゆがみを与えるだけで、ロウの復元運動は影響される。造られつつある巣盤下方の生長部では、六角形はまだお粗末だし、巣壁は厚く不揃いである。同じことが女王室の外壁表面の模様にも示されている。つまり六角形と均一な薄い巣壁は、相互に影響し合って形成されていくのである。」(坂上 1983:25)

何度も読んだのですが
3つ目の最後らへんは、今ひとつどういうことなのかよく分からず。
しかし、何やら面白そうなことを書いているなぁと思ったのでした。
誰かわかったら教えてください。

そしてマーティンとリンダウアーが報告してる話ではないけれど、
みつばちたちの巣作りで、これまた不思議なのは、
複数箇所から作り始めることが可能だということ。
精密な6角形の巣房、だけど、上から鐘乳石のように伸びていく巣房は、
一見するとバラバラに作られていくにもかかわらず、
見事に連結して、一枚の巣になっていくのです。

どうやって測っているのかしら。
彼女らの謎です。

蜂たちの鎖

この巣作り作業の際によく見られるのが、
みつばちたちが鎖のようにつながって、カーテン状になっている様子。
しかも、長時間、動かずにいる。
この理由はいろいろ言われているのですが、
正確な理由はわからないというのが多く見られる見解です。

ふむ。

ある説では、
巣を本格的に作り始める前の見取り図・下地として、
自分たちでつながって見ているのだという人もいます。(タウツ、2010)

またある説では、一晩そのままじっとしておくと、
翌日、腹部に薄いうろこ状の蜂ろうが分泌されていて、
みつばちはその状態のまま、みつばちの鎖を伝って上までよじ登り、
蜂ろうを大あごで噛んで柔らかくして、
天井に一片を器用に貼り付けていく。
そうやって左官のごとく、代わる代わるにせっせと施工というか

作業を行っていくのだとか。(坂上、1983)

あるいは、縄ばしごのように、
床に落ちてしまったうろこ状の蜂ろうを拾い集め、
巣房作りをしているところまで運び上げる役割なのか。(タウツ、2010)

こんな具合にみんな色々と予想してみていますが、
「僕としては◯◯という理由なんじゃないかと思うんだよね。知らんけど。」という感じ。

分蜂球の中に手を入れた時も、
手を抜くときにブラーンとひっついていたりしたのだけど、
なんか連結しがちな生き物なのかな。知らんけど。

ついてきた蜂たち

指先にくっついてきたみつばちたち

 

今日はここまで

さて、今回は働き蜂の内勤期のお仕事、部屋作りについて見てきました。
人間にはわからない、みつばちたちの設計術が光る巣房作りの技。
何のためだかわからないけれど、鎖のように手足を取り合ってぶら下がったり、
ファスナーがピタリと閉じるように、バラバラのところから建設していた巣房が綺麗に連結したり、
みつばちは不思議だなぁ!

内勤のお仕事、まだまだ次回も続きますよ!

参考文献
坂上昭一、1983、『ミツバチの世界』、岩波新書

平成28年「養蜂をめぐる情勢」からわかること

毎年、農林水産省から公表される養蜂をめぐる情勢
10月ごろに公表されるということで、ここ数日、ほぼ毎日、このページをチェックしており、11月になっていつのまにか、最新の平成28年のデータが公表されていました。

ということで、今週は最新データから見る日本にはちみつ事情を簡単に考察します。

①国産はちみつの比率の変化

日本で流通している国産蜂蜜は、全体のたった5.4%。になっていました。いわゆる自給率という数字で、国産蜂蜜÷国内蜂蜜流通量×100で計算できます。
ちなみに、これは過去最低の数値です。(ちなみに昨年は7.3%で、平成に入ってからはずっと7%前後の値です。)

平成28年の国内蜂蜜の割合 

②はちみつの大量輸入

その要因は、国産のはちみつがわずかに減少したいうのもありますが、輸入量が大幅に増えたからなのです。国産蜂蜜は111t(トン)減少、輸入蜂蜜は12,000t増加。輸入蜂蜜のうち中国からの輸入が7割以上を占めており、約9,000t。

なので、国産蜂蜜の比率が約2%(7.3%→5.4%)も減少したのは、輸入量が大幅に増えたので、分母である国内流通量が大幅に増加したからなのです。

はちみつの輸入量の変化

 

 

③日本での年間蜂蜜消費量が130%増!!

日本国内で、平成27年の年間消費量は約39,000tであるのに対して、平成28年の年間消費量は約51,000t。約130%増!
ここ20年くらいは年間消費量は約40,000tくらいなのに。なぜか昨年、急に増えた。

その内訳は、家庭用が約7,000t、業務・加工用が約6,000tの増加。
いやいや、急に増えすぎでしょ。
まさか、はちみつブームが起こっているのでしょうか!?

淡路島で小さなみつばち屋さんをしている私には全く実感がわかないのです。
そして、私たちはテレビのない生活をしており、情報はネットと新聞だけなので、もしかしたら、テレビの世界では、ものすごいはちみつ特集がされているのかも…。と想像を膨らませるのです。

もし、実感されている方がいれば教えてほしいです。

と、そんなことを書きつつも、そういえば、去年、お世話になっているおじいちゃんが、黒酢とはちみつと生姜で漬けおきして、しもやけに効くから毎日飲んでるって言っていたような。

国産・輸入蜂蜜の推移

ということで、

平成28年「養蜂をめぐる情勢」からわかることは、実は、巷でははちみつブームなのかもしれない!!ということです。

 

はちみつで何千t(トン)っていう数値をみても、なかなかぴんと来ないのですが、データからわかるはちみつ市場の不思議なお話でした。