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Column -コラム-

はちみつとボツリヌス菌(後編)

投稿日:2017年5月3日 更新日:

自然界最強を誇るボツリヌス菌、今回はその後編をお届けします。

地上最強の菌、ボツリヌス

乳児以外は大丈夫?乳児はなぜ罹る?

はちみつを1歳未満の乳児が食べないように、いろいろな所に注意書きがあります。
しかし、乳児以外は食べても大丈夫なのでしょうか?

食べてもいいの?

実は、ボツリヌス菌による中毒症状は、症状の現れ方や経過によって、

食餌性ボツリヌス症(食中毒)」、
創傷ボツリヌス症」、
乳児ボツリヌス症」、
成人腸管定着型ボツリヌス症」の5つに分けられるそう。

名前から想像できるように、はちみつなどを介してボツリヌス菌を乳児が摂取した際に発症するのが「乳児ボツリヌス症」です。
また、乳児でなくとも、ボツリヌス菌の産出した毒素に汚染された食べ物を摂取することで発症したり、傷口から菌が侵入し、皮下組織で増殖・毒素を産出することで中毒症状は起こります。

では、はちみつを食べると必ず中毒症状が起きるのか?
答えは「その場合もあるが、健常な小児及び成人であれば中毒症状は起こらない」というのが正しいでしょう。
その理由を端的に言えば、腸内細菌の働きにあります。
通常、腸内細菌のバランス(腸内フローラ)が健常に保たれていれば、芽胞が混入したものを食べても、芽胞の発芽や増殖を防ぐことができ、毒素の産出も防ぐことができます(ただし、すでに芽胞の状態ではなく、菌として毒素を産出している段階のものを食べた場合には防げません)。

腸内フローラ(『もやしもん1巻』より)

しかし、乳児ボツリヌス症と腸管定着型ボツリヌス症のように、腸内細菌のバランス形成が未発達な乳児や、小児や成人であっても外科手術や抗菌薬の投与などで腸内細菌の破壊や菌交代などが起こっている場合には、ボツリヌス菌の芽胞が発芽し毒素の産出が起こる場合があるのだそう。

どんな症状が出るの?

ボツリヌス菌の算出する毒素は、神経機能に作用し、弛緩性麻痺を起こす働きを持つ。
それによって、嚥下困難や呼吸麻痺などを引き起こし、最悪の場合死亡することもあるのだとか。。。

国立感染症研究所 感染症情報センターによると、

食餌性ボツリヌス症:いわゆるボツリヌス食中毒であり、ボツリヌス毒素に汚染された食品を摂取することによって発病する。多くの患者は初期症状で視力の低下、瞳孔散大、複視、眼瞼下垂、対光反射低下などの視覚異常を訴えるとともに、口内の渇き、嗄声、腹部の膨満感、吐き気、嘔吐、歩行異常、嚥下困難、便秘、全身の筋弛緩などの症状を呈する。重症の場合は呼吸筋の麻痺による呼吸不全で致命的となる。原因食品の摂取から発病までの時間は摂取された毒素の量と型によるが、数時間~2日程度である。強力な毒素が原因であるため致死率は他の食中毒に比べてかなり高い(10~20%)。

乳児ボツリヌス症:生後1歳未満の乳児が芽胞を経口摂取することによって、腸管内でボツリヌス菌の発芽・増殖がおこり、産生された毒素によって発症する感染型の疾患である。1歳未満の乳児が発症するのは、腸内細菌叢が成人とは異なりボツリヌス菌の定着と増殖がおこりやすいためと考えられている。症状は便秘傾向にはじまり、全身の筋力低下をきたす。泣き声や乳を吸う力が弱まり、頸部筋肉の弛緩によって頭部を支えられなくなる。顔面は無表情になり、散瞳、眼瞼下垂、対光反射の緩慢などボツリヌス食中毒と同様な症状が現れる。呼吸障害が生じ重症化すると死に至ることもあるが、乳児ボツリヌス症の致死率は食中毒に比べると低く2%程度である。

創傷ボツリヌス症:患者の創傷部位でボツリヌス菌の芽胞が発芽し、産生された毒素により中毒症状がおきる。米国では麻薬常用者の注射痕からボツリヌス菌の感染がおきた例などがしばしば報告されている(MMWR 52: 885-886, 2003)。

成人腸管定着ボツリヌス症:1歳以上の子供と成人でも乳児ボツリヌス症と同様に、腸管内でボツリヌス菌が定着、増殖して発病することが報告されている。発症は外科手術や抗菌薬の投与によって患者の腸内細菌叢の破壊や菌交代現象がおこっている場合に限られる。

(出典:国立感染症研究所 感染症情報センター、「ボツリヌス症 2008年1月現在」

それぞれ、こんな症状が出るものみたいですね。

 

日本ではちみつを媒介とした感染事例

日本では、1986年に国内初の「乳児ボツリヌス症」が確認されたりしているようです。
乳児ボツリヌス症は、1990年までははちみつを原因とするものが大半だったものの、乳児がはちみつを摂取することの危険性が徐々に周知されていき、以降は、ほぼ、はちみつ以外の感染ルートによるものになっているようです。
乳児ボツリヌス症の発生件数自体は、1984年〜2008年の間に24件。
そのうち、2005年以降は毎年2件づつの発生にとどまっているのだとか。
(アメリカの場合は年間約100件発症し、そのうち7割が乳児ボツリヌス症であることを思うと、日本では発生は稀だと言えますね)

はちみつ以外の感染ルートだと、1984年に熊本県で製造された辛子蓮根でボツリヌス菌が増殖していて大事件になったりしています(食餌性ボツリヌス症)。

辛子蓮根を製造する際、殺菌しきれなかった菌が、密封された環境の中で増殖した事例

また、創傷ボツリヌ症と成人腸管ボツリヌス症は日本での発症事例は確認されていないようです。

医療現場でも使われるボツリヌス菌

そんな恐ろしいボツリヌス菌ですが、その特徴を把握し、利活用しようというのが医学・科学の世界。

例えば、美容外科で見かけることもある、ボツリヌス毒素の注射(ボトックス注射)。
ボツリヌス菌そのものを注射するのではなく、ボツリヌス菌がつくるタンパク質(ボツリヌストキシン)を薬として使えるように加工したものを注射します。
本格的に医学で応用され始めたのは1980年代ということで、もう40年近くになるわけですね。
ボツリヌス毒素の持つ、筋肉の神経に作用し麻痺させ弛緩させる特性を利用し、過剰な緊張によって固くなってしまった筋肉を柔らかく動かしやすくする効果や、皺取り効果などが期待出来るのだそう。

(漫画「もやしもん」では樹教授がボトックス注射でつるつる卵肌になってましたね。。)

ということで

さて、知れば知るほど恐ろしいボツリヌス菌。
だけど日常の中で感染する恐れはとっても稀なもののようです。

どこにでもいて、好むと好まざるとに関わらず人類と密接な付き合いをしてきた菌たち。
時には彼らの働きに注意し、時には恵みを享受して、彼らとうまく付き合っていきたいな。
今回はそんなボツリヌス菌の話、後編でした。

参考文献及びURL
・石川雅之、『もやしもん』
・ECOLAB http://ja-jp.ecolab.com
・外務省、「UNSCOM/UNMOVIC報告による主なイラクの大量破壊兵器疑惑」 http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/gunso/pdfs/iraq.pdf

・輝城会 沼田クリニック http://kijoukai-gr.jp/nc/knowledge/botox.html
・国立感染症研究所 感染症情報センター、「ボツリヌス症 2008年1月現在」 http://idsc.nih.go.jp/iasr/29/336/tpc336-j.html
「ボツリヌス菌毒素の構造と作用」http://idsc.nih.go.jp/iasr/29/336/dj3361.html
・国立感染症研究所 レファレンス委員会 地方衛生研究所全国協議会、「ボツリヌス症」、2012 http://www.niid.go.jp/niid/images/lab-manual/botulism121207.pdf

・内村眞佐子、三瓶憲一、小岩井健司、矢崎広久(1987)「乳児ボツリヌス症の原因食品に関する調査」、千葉県衛研報告第11号 http://www.pref.chiba.lg.jp/eiken/eiseikenkyuu/kennkyuuhoukoku/documents/11-p39.pdf
・役に立つ薬の情報~専門薬学 http://kusuri-jouhou.com/microbe/saikin.html
・山口県感染症情報センター http://kanpoken.pref.yamaguchi.lg.jp/jyoho/page5/syoudoku_4-8.html

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